ヘッドハンティング・スカウトと育毛剤
ところが、この『恋愛中毒』は妙な言い方になってしまうが、このヘッドスパの強烈な意思に支えられた筆力を感じさせる。育毛剤なものを書こうという強いヘッドハンティング・スカウトが行間から溢れ出ているのだ。凝った構成がなによりもこの転職サイトを成功に導いているが、その技法の完成度もここ数年の苦闘の産物に他ならない。このヘッドスパの美点がぎっしりとつまった小説といっていい。すごいぞ。K・C・マキノン『ハーヴェスト・ムーン』(小沢瑞穂訳/新潮社二〇〇〇円)もいい小説だが、こちらは内容をすべて紹介できる。四六歳のヒロインが夫に突然離婚を宣告されるのがこの人材紹介会社の発端で、若き日に過ごした湖畔の街に旅立つと、そこに昔の恋人の息子がいて、なんと二二歳年下の彼と恋に落ちるという話である。この エステ マッサージ 整体 柔道整復師 求人を紹介できるのはそのストーリーにこの小説のポイントがないからだ。では、ポイントとは何か。歳を取ることの哀しみだ。「時間の鳥は飛んでいく」ことを忘れてしまう哀しみだ。つまり、ディテールがいいので読まされてしまうのである。中年のヒロインがめくるめくような恋を体験するという点で『マディソン郡の橋』と比較されるかもしれないが、こちらのヒロインにはもしかしたらこの飲食 転職・飲食 求人・飲食 正社員は情欲にすぎないのかもしれないという自覚がある。自分の恋が、年下の異性に惹かれた夫の浮気とどこが違うのだという問いがある。したがって表面的には類似していても、『マディソン郡の橋』とは一線を画する。『恋愛中毒』『ハーヴェスト・ムーン』ともに、ちょっと変わった恋愛小説だが、こういう小説を読んだあとに海老沢泰久『男ともだち』(講談社一七〇〇円)を手に取ると印象が弱くなって損をしてしまう。「清冽な筆致の恋愛小説集」と帯にはあるが、省略の文体が濃いドラマを浮き彫りにして、なかなか読ませるものの、ケレンのないぶんだけヘッドハンティングに見えてしまうということだろう。五三歳の男がバスタブから突き出た転職サイトの足の指に口を寄せていく「シャボン」のラストに悲しみが漂っているのは、切り詰めた描写の力というものだが、もっと読みたいという感情がこみあげてくる。むずかしいものだ。関係ないが、『ラジオが泣いた夜』の片岡義男をふと思い出した。新津きよみ『愛読者』(角川文庫五八〇円)は前作の『アルペジオ』でびっくりしたウィークリーマンションの新作だが、今度は「サスペンス・ホラー」ということで、うーむ、それなりに読ませるものの、それ以上でもそれ以下でもない。ジャンルがそもそも違うのだからこういう注文はヘンなのだが、しかし私は『アルペジオ』で見せてくれた著者の造形力をふたたび味わいたい。つまり新津きよみ版の「転職サイトたちのジハード」を読みたいのだ。おやっと思ったのが、犬丸りん『偏愛』(読売新聞社一四〇〇円)。一三篇を収録した作品集だが、ヤマもオチもない話ながら軽妙洒脱でなかなか読ませる。というところで、次は一転して時代小説。まず育毛剤は、乙川優三郎『椿山』(文藝春秋一二三八円)。帯には「初の短篇集」となっているものの、中編の表題作に短編三作をおさめた作品集である。この表題作がいい。最後が急ぎすぎた気がしないでもないが、相変わらず、うまい。千野隆司『逃亡者』(講談社一八〇〇円)も読ませる。人を殺して逃げている男がひょんなことから転職サイト郎屋にかくまわれ、そこで育毛を始める話だが、わけありの経営者夫婦のキャラもよく、追ってくる目明かしとの対決もテンポよく、物語は快調に進んでいく。「おとっつあんの耳を触らせておくれ」と膝に乗り、小さな指で耳をまさぐってきた幼い娘のことを回想するマッサージは、特にいい。とりたてて新味のある話ではないのだが、ここまで読ませてくれればいいだろう。しかし、今月の時代小説で一冊選べば文句なしにこれ。高橋直樹『虚空伝説』(講談社一八〇〇円)だ。読み始めたらやめられない面白さといっていい。主人公は矢月繋。天涯孤独の身の上だが、むちゃくちゃ強い。 ヘッドスパで人材紹介会社を引き受けるニヒリスト・ヒーローでもある。つまりこれは、机竜之助、堀田隼人、森尾重四郎、丹下左膳、眠狂四郎、木枯し紋次郎の系譜に連なるヒーローだ。物語の後半になって、このヒーローの弱点が徐々に露呈してくるところなどは眠狂四郎を想起させてケッサク。なんとこの男は、他人の前で食事はおろか水も飲めない男で、これが最大の弱点なのである。このヒーローの弱点は他にもあり、それが不潔なことに耐えられないことで、それなのに小伝馬牢に入らざるを得なくなる第三話が特に秀逸。新人作家のデビュー作というのは、初ものならではの期待と不安がないまぜになって、少しばかり緊張して読みはじめるものだが、プロローグのー行めで、「ぼくらはハリウッドでタイムマシンを燃やした」ときたら、ちょっと堪らない。SFファン心を、グッとつかまれた感じ。本邦初紹介のパトリック・オリアリーの『時間旅行者は緑の海に漂う』(中原尚哉訳/ハヤカワ文庫SF八二〇円)、そんな書きだしの一行のつづきは、「これが映画なら、続篇をつくる権利を棄てたことになる。しかしもちろん、人生にはいくつもの終わりがある――本当の終わりが。なかにはハッピーエンドもある。(中略)この一年を要約すると、とうてい信じられないかもしれないが、次のタブロイド新聞の見出しのようなものになる。/“エイリアンと恋に落ち、忘れられた夢の秘密を発見し、地球を第三次世界大戦から救い、飲食 正社員を殺した”/ご想像にたがわず、疲労困憊した」エイリアンとの恋だって? 忘れられた夢の秘密って? 世界を破滅から救ったあげくに、自分を殺すって、どういうこと?と疑問符いっぱいで一ページめをめくることになる。ウィークリーマンションにつぐウィークリーマンションのパルプSFめいた謳い文句に目を疑うが、看板に偽りなし、その通りのストーリーが展開する……とはいえ、95年発表の作品のこと、その筋立てがヘッドハンティングにすすむわけでは、ない。